Tシャツ事件
私は、精神的にとても不安定になっていた時期、大学の授業に行けなくなっていた。
その時期は4年弱続けたファーストフード店でのバイトをやめてすぐの時期。
その時期は、弟も精神的に荒れていた時期で、仕事をせずに家にいた時期で、家の中の空気は氷河期だった。
私の家は小さなアパートで、母、弟、私の3人で住むにはなかなかに窮屈な家だった。
当然、自分の部屋なんて無かった。
だから、お互いのことがすごく目に付くし、1人になりたいときに1人になることができないから、私はすごくイライラしていた。
先程も述べたが、私は当時ものすごく精神的に不安定だったので、急に泣きたくなるときが頻繁にあった。
私は、家族であっても、誰かに泣いているところを見られるのがすごく嫌だ。
だから、弟が家にいたら泣きたいときに泣くこともできなくて、それも私の大きなストレスとなっていたのだ。
そして、いつまでも働けずにいた弟に、母が、
「あんた、これから仕事はどうするの?」
という話をしていたときに、イライラが積もりに積もっていた私は思わず、
「いい加減働きなさいよ、本当に迷惑なんだけど」
と言ってしまったのである。
これは、弟が働けずにいることに腹を立てていた訳ではなく、1人になれないことへの苛立ちによって出てしまった言葉だった。
自分もバイトを辞めたてで、しかも大学にも行けていなかったから、弟が働けない気持ちは少しはわかっていたのだが、そのときは本当にイライラしていて、そんな言葉を言ってしまった。
すると、弟は私にこう言ったのだ。
「ちょっとマックでバイトしたからってでかい顔すんなよ」
と。
その一言で、私の怒りは頂点に達した。
場面緘黙症である私にとって、マックで4年間も働いたことがいかに大変なことだったか、こいつは全くわかっていないのか。
思い通りに出ない声を振り絞って接客したり、動きにくい体を必死に動かしてスピードについていったりすることがどんだけしんどかったと思ってるんだ。
それを私は4年もやったのに、ちょっとバイトしたくらいだと?許せない!
私は
「はぁ!?あんた今なんて言ったよ!?」
と言い、弟の胸ぐらに掴みかかった。
そのとき、聞こえたのだ..。
ビリッという音が...。
なんと、私は弟の胸ぐらを掴んだ勢いが強すぎて、弟のTシャツを破ってしまったのである。
これには弟も母も、そして私も、皆が唖然としてしまった。
そして、Tシャツを破ってしまったことにより、
「2人とも、ちょっと頭を冷やそうか」
ということでその場が収まったのである。
お互いに傷つくことを言った挙句、Tシャツ、しかも弟のお気に入りのTシャツを破ってしまったのに、その件についてその後弟が何か私に言ってくることは無く、今では笑い話になっている。
私だったら、Tシャツ弁償させる所だが、一切Tシャツのことを怒らない所は幼い頃優しかった弟のままだと思った。
お互い精神的に荒れていた頃はギスギスしていたが、今弟は県外で働いていて、私もあのときよりは精神的に安定しているから、たまに連絡を取ってそこそこ仲良く?している。
弟は、私の病気のことも理解しようとしてくれていると私よりも弟と話している母から聞かされている。
だから、私も弟に何かあったら今度は間違っても迷惑だなどと言わず、寄り添う姿勢を見せたい。