ラップ
これは、中1の頃の話。
あるとき、音楽の授業でこんなのがあった。
4人ずつのグループになり、それぞれ違うパートをやるというものだったのだが、それが、リズムに乗って言葉を言う、ラップのようなものだったのだ。
しかも、4人ずつ前に出てそのラップを発表しなければならなかった。
もう、この内容を聞いた途端、私は固まってしまった。
音楽の時間は、リコーダーなどの楽器や歌のテストがあるが、リコーダーは割と得意だったし、歌も好きだったから、死ぬほど緊張しながらもなんとかこなしていた。
けど、ラップって...!
ありえないだろ...!
私がやったらお経だし、そんなクソラップみんなの前でやるなんて絶対に無理だ...!
私は打ちひしがれていたが、先生の話はどんどん進み、気づいたらグループ分けまで終わってしまっていた。
とりあえずグループに分かれて、誰がどのラップパートをやるか話し合って決めたのだが、やっぱり問題は練習時間のときに起こった。
普段ほぼ声を発せない私が人が見ている前でラップなどできるはずもなく、4人での練習中も私は全く声が出せなかったのである。
他の3人は、私がクラスで声を出さない子だと認識していたから、特に私に
「早くやれよ」
的なことは言わなかった。
そんな優しい子たち中でも私は人前でラップなんてどうしてもできなかった。
そうしているうちにその時間は終わり、次の音楽の時間にみんなの前で発表ということになった。
私は、ラップの発表なんてやっぱりどうしてもできないし、みんなの前で棒立ちになって発表を台無しにしたくなかった。
それなら、最初から私が発表当日にいなければいいんじゃないか?
そう思った私は、発表の前日に風邪を引いてしまおうと決めた。
発表の前日、お風呂のときにお湯を使わずに水で全部済ませ、寝るときは体の上に氷の入った袋を置いて布団も被らずにとにかく身体を冷やしまくった。
まぁ苦しかったが、ラップをやるより遥かにマシだと思った。
「お願いします、明日風邪を引いていますように」
ひたすら祈った。
そして、発表当日。
私は見事に風邪を引き、しかも熱まで出したのでした。
風邪を引こうと思って引いたのは、このときだけである。
まだまだ不自由はあるが、一見緘黙に見えないレベルには話せるようになり、カラオケサークルで抵抗なく歌うことができるようになった今でも、人前でラップは相変わらずできない。
なんなら、母とふたりでカラオケに行くときも、ラップのある歌を歌うときはラップの部分は黙っている。
緘黙でなくても人前でラップは抵抗がある人が沢山いるんじゃないでしょうか?